短歌81-90

81.

始まりに

戸惑い覚え

花束を

空に散らせた

夢は消えぬ

『走馬灯』

 

82.

理想的

羽根を散らした

皿を割り

汚い私室

陽だけが救い

『ボロボロ』

 

83.

蝉鳴いて

潮風寒く

風鈴を

蝋燭垂れて

童ささめく

『夏の思い出』

 

84.

夏空の

やさしい吐息

耳赤く

通り過ぎるバス

次まで待てぬ

『バス停』

 

85.

久方に

痛い炭酸

目にしみて

夏の太陽

焦げる生肉

『陸上部』

 

 

86.

宝石を

見失い今

地に伏せて

ライトが照らす

ここは危険と

『失う』

 

87.

砂塵舞う

汚れた光

影刺して

蟻が誘う

心臓潰し

『砂漠』

 

88.

まっすぐに

文に過ぎれば

日が暮れて

カラスが叩く

今夜は鍋と

『帰り道』

 

89.

気がつけば

貴方ばかりが

目に浮かび

「ビョウキなのよ」と

黒猫に言う

『恋煩い』

 

90.

手が薫る

其れはプールと

覚えてた

実は人魚よ

匂い消えずに

『消毒液の匂い』