短歌101-110

101.

夏の庭

夕陽静かに

鹿の無限

命を好きと

君はなぞるか

『奈良の鹿』

 

 

102.

僕にない

美を抱え込み

花咲かせ

君の歩みを

どう見るべきか

『若者の馬鹿』

 

103.

まどろみの

心の皺を

整理して

鞄引いては

さよならの道

『旅は続く』

 

104.

首を振り

真っ赤な夕陽

目にしみて

鼓動が痛い

君の放課後

『思い出』

 

 

105.

伝説は

ここにしかない

老人よ

背中の重し

山頂は真

『到達者』

 

106.

繭破り

埃まみれの

路地裏を

血を垂れ流し

朝日拝めた

『始まり』

 

107.

愛一つ

人は一つを

愛するが

幾多の人よ

愛すべき人

『横目』

 

108.

耳閉じた

光は背中

寂しくて

影を千切ると

涙を零す

『影踏み』

 

109.

熱情が

背中を過ぎて

明星へ

陽のない町は

君を見続け

『流しのギターマン』

 

110.

山陰の

小枝の雫

肌にしみ

鳥のさえずり

午後のうたた寝

『会話する森』