詞1-5

1.『孤独な踊り子』

暗闇の舞台で始まった

孤独な踊り子の戦争が

空を疾る銃弾を

君は忘れてと呟いた

 

明るい舞台で始まった

孤独な踊り子の休憩が

地を歩く旅人を

君は拝めてと走り出す

 

太陽の舞台で始まった

孤独な踊り子の終焉が

海に沈む旅人を

君は助けてとさざめいた

 

 

2『誰の為の人生』

ライ麦畑のキャッチャーは
無邪気な子供を守っている
神戸で育った役者は
何を守るのか
東京もニューヨークにも行くこともなく
ただ出番のない舞台を
袖で涙を流している
誰の為の人生?
俺の為の人生?
彼の為の人生?
彼女の為の人生?
人生という言葉を捨てたことすら忘れて
今日も劇場から離れていく

 


9つの物語が揃えば
球場でゲームが始まる
神戸で孤独な役者に
野球はできない
上海やパリに憧れることもなく
首になった舞台を
客席で唇噛んでいる
誰の為の人生?
俺の為の人生?
彼の為の人生?
彼女の為の人生?
人生という言葉を捨てたことすら忘れて
今日も劇場から離れていく

 


グラース家の兄妹は
妹の憂鬱をほぐした
神戸で大根な役者は
誰に届くのか
テレビや映画に出ることもなく
お呼びでない舞台のチラシを
街角で無表情に眺めている
誰の為の人生?
俺の為の人生?
彼の為の人生?
彼女の為の人生?
人生という言葉を捨てたことすら忘れて
今日も劇場から離れていく



世捨て人の作家は
犯罪者のバイブルとされた
神戸で負けた役者は
何を表現するのか
舞台や劇場に行くこともなく
秋風匂う商店街を
口笛吹いて歩いていく
誰の為の人生?
俺の為の人生?
彼の為の人生?
彼女の為の人生?
人生という言葉を捨てたことすら忘れて
今日も劇場から離れていく



実家にある本棚の小説は
もう読まれることはない
神戸で生きた役者は
何を叫んできたのか
拳銃やナイフを持つこともなく
場末の公園で一人
戯曲を叫んでいる
誰の為の人生?
俺の為の人生?
彼の為の人生?
彼女の為の人生?
人生という言葉を捨てたことすら忘れて
今日も劇場から離れていく

 

 

3『誰か、僕の嘘に、火をつけてください』

僕自身にすら嘘をつくなんて
幼い頃の僕では考えられなかった
血まみれのナイフ
冷淡なピストル
凶器が僕を傷つけるのではない
傷つくことを恐れ
暴かれることに痛んで
嘘という爆弾を抱え込んでしまった
血まみれの僕
バラバラの僕
僕がそれを見れないのがとてももどかしい
罪の
意味を
僕は知りたい
嘘がそれを強いているんだ
嘘をつかないで
胸を曝け出して
誰か、僕の嘘に、火をつけてください
僕が、僕の嘘に、火をつけてください

 

素敵な君にすら嘘をつくなんて
恋を始めた僕では考えたくなかった
認められない怒り
裏切られた悲しみ
感情が僕を傷つけるのではない
認めることを拒み
あらわを恥ずかしがって
嘘という爆弾を抱え込んでしまった
被告人の僕
絞首台の僕
僕が僕であることを此処で知りたくなかった
罰の
価値を
僕は知りたい
嘘がそれを許しているんだ
嘘をついてしまった
頭を抱え込んで
誰か、僕の嘘に、火をつけてください
僕が、僕の嘘に、火をつけてください

神様にすら嘘をつくなんて
生前の僕では考えることもなかった
森の木漏れ日
果てしない青空
生命が僕を傷つけるのではない
鼓動の価値を知り
呼吸が有り難くて
嘘という爆弾を抱え込んでしまった
天国の僕
地獄の僕
僕がついた嘘はなんてくだらなかったんだろう
命の
温さを
僕は知りたい
嘘がそれを認めているんだ
嘘をつくんだ
手を伸ばして
誰か、僕の嘘に、火をつけてください
僕が、僕の嘘に、火をつけてください

 

 

4『永遠なる破談』

貴女を見る度に苦しむ胸があるならば
どうして愛が飛ぶことを許したんでしょう
運命の赤い糸など見逃せば永遠を許されたのに
たとえ甘い生き物だとしても貴女さえいなければ
完璧だったのに

 

叶わぬと壁が悶えさせる
苦しませるために産まれたの
マリア様は酷い人
赤い糸なんて忘れたい
出会う度に思い出す
完璧な世界が失われ
泡がふき
波がたつ
世界には貴女と二人だけ
刻まれる秒針 止まる世界
矛盾すらも苦しくて

 

永遠の甘さを約束された果実を
愛は永遠だと言ったイエス
貴女を見る度に浮かぶ苦しさが嘘だと呟く

 

壁の向こう側のやさしさを
愛を
永遠を
僕は知りたくて祈り続ける
なのにどうして苦しみが襲う
貴女と会う度に浮かび上がる

 

5『果汁』

甘い果汁が降る庭園で
掌にやさしさ、受け取って
胸に残る甘さ、貴女は覚えていない
僕は果実だった
甘い汁を君も知ることとなった
君は一目みて甘さ確かめて
僕は枯れてゆくのだ。朽ちてゆくのだ。
人は旧来、果実だった。
君はそれを思い出させてくれた
僕は果実であったと日記に残して
朽ちるその時まで眺めているのだ
貴女は、それを知らない
貴女は果実だった
甘い汁を僕は知り過ぎた
僕はみ続けて甘さに溺れて
君は枯れてゆくのだ。朽ちてゆくのだ。
僕は、それを知れない。
僕は、それを知りたい。
誰も訪れることのない庭園で
一人君の果汁が沁みた日記を読む。
君は、それを知らない。
君は、それに囚われない。
僕は、枯れてゆくのだ。朽ちてゆくのだ。
君の果汁が沁みた紙を口にしながら。